About MORIHICO. Vol.01

屋根裏の一期一会

コーヒー豆の麻袋が無造作に置かれたコンクリートのオープンスペース。オレンジ色のシトロエン2CVを横目に、ガラスの扉を引くとロースト仕立ての豆の香りにハグされる。いかにもこの店らしい、すてきなイントロダクションだ。
 MORIHICO3号店「プランテーション(現・MORIHICO.ROASTING&COFFEE)」にはカフェのお客とはまた別に、さまざまな人々がやってくる。三角屋根の形状をそのまま生かした屋根裏空間、「グルニエ」で不定期に開催されるマルシェ・ドゥ・グルニエがお目当てだ。札幌をはじめ道内の作家によるクラフトや陶芸品、手づくりのアクセサリーにテキスタイル、焼きたてのパンや自家製ジャム、採れたて野菜の販売のほか、アコースティックライブ、お菓子づくりのワークショップと、内容は盛りだくさん。そこは若きクリエイターの実験スペースであり、それをおもしろがる人たちとの出会いの場でもある。
 もとはボイラー工場だったというここを見つけたとき、市川を真っ先に惹きつけたのが屋根裏だった。そして、すぐにマルシェのアイデアを思いついたのだという。「感度の高い人たちが集い、互いに影響し合いながら磨きをかけてゆく。そんな人が増えたら札幌の街はもっと魅力的になるよね」。

屋根裏の一期一会 屋根裏の一期一会
屋根裏の一期一会

 創造とコミュニケーションの場をつくりたい。この思いは20年以上も前に、自分でこしらえた小さな茶室にさかのぼる。東京で学生時代を過ごした市川は、歴史の深い暮らしまわりに日本文化への関心を強くする。あるとき、千利休の草庵茶室の話を読み、それが当時はとんでもなく前衛空間であることに驚き、おおいに触発された。帰札後もその熱は覚めやらず、円山の一角に古い民家を借り、書物を頼りに屋根を葺き、躙り口を設け、畳には炉を切った。森彦本店を創業する5年ほど前のことである。
 月菴(げつあん)と名づけられた茶室には、昼に夜にユニークな人物が集まり、時を忘れて語り合った。思想家、芸術家、舞踏家…。客人のある日は室内を掃き清め、花を生け、炉に炭を入れて準備した。「無手勝流」のもてなしだが、つくづく、人を迎えるのが好きなのだと気づいたのだ。幸運にも20代前半で体験した濃密な時間は、その後の人生をも照らしてくれた。茶室から、屋根裏のマルシェへ。時と場所を移しても、人を招きもてなしたいという気持ちは少しも変わらない。